社会

須田が斬る 「月10万円で楽々」は本当か

投稿日:2017年8月24日 更新日:

 タイは日本人のリタイア後の海外移住先として人気を上げ、ロングステイ財団の調査によると、6年連続で住みたい国の第2位を維持している。
 確かにタイは住みやすく、魅力がある国で、この国の駐在を経験した日本人の半分以上は、なんらかの形で「将来再び戻って来たい」との夢を描くという。そう言う筆者もかつて通信社のバンコク特派員を務め、離任後30年近くもその夢を持ち続け、定年退職後にここに1つの生活拠点を構えた1人だ。欧米諸国からのリタイア移住者に少し遅れて日本人移住者も増え、在タイ国日本大使館領事部の2016年統計によると、65歳以上の高齢の長期滞在者はすでに6000人を超えている。
 リタイア後の「第2の人生」の拠点としてタイの魅力を宣伝する情報は非常に多くなったが、こうした情報を見ていて1つ気になることがある。それは「年金だけで十分暮らせます」とのふれ込みで、定年まで日本国内でしか生活した経験のない人々に物価水準の違いなどを示すだけでタイ移住の魅力を説いている。
 だが、ここでもう1つ考えるべきことは、右も左もわからず、日本での生活リズムしか知らない人にとっては、タイで庶民レベルの生活をしようとすると、最初は結構、しんどいのが実態であることだ。こうした面をほとんど伝えないのは片手落ちで、すぐに快適な生活が待っているような宣伝はいかがなものかと思う。
 1カ月10万円の生活。もちろん筆者は十分にできる自信がある。しかし、それは簡単なタイ語とともに、公共交通機関による移動、安心できる大衆食堂での食事、郵便局や銀行などでの用のたし方、庶民の物価水準など生活上の「勝手が分かっている」からだ。あまりお金をかけないで済む節約の方法を心得ていることもある。貧富の格差が大きいタイ人の生活空間は所得階層によって天と地の開きがある。自分が外国人としてどの層に合わせて振る舞うか「ふさわしい居場所」の感覚を身に付けるまで1年や2年の時間は必要だ。
 慣れてくれば、庶民が行くタラード(市場)で値切りながら生鮮食品を買ったり、硬い椅子のソンテウ(乗合自動車)でソイを走って沿道風景を楽しむのもこの国ならではの娯楽になる。同乗のタイ人乗客の動作や表情の観察も面白い。そこまで行けば、出費にめりはりをつけるコツも分かり、浮かせたお金を時には一点豪華に使うことで、生活の潤いも増してこようというものだ。
 やはり、そうした異国に移住することに伴う生活上の心構えにほとんど触れずに、単純な物価比較だけで海外移住を論じるリタイア・ライフ本に目を通す度に雑駁(ざっぱく)すぎて、いざ第2の人生で海外移住を考える人に不親切な内容が多いと思う。まして「日本は生活費が高いから、物価の安い東南アジアで老後を送りたい」というような発想の方は大方、後悔することになるのではないかと心配になる。特に年を取ると、「残りの人生の目標」こそが息切れしない生き延びる原動力になることに気付く。海外に移住しても、そうした意識を持つか持たないかが明暗を分けるのは周りの人々を見ても分かる。
 (フリージャーナリスト・須田浩康)
(毎週木曜日掲載します)

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