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【コラム 須田が斬る】高額紙幣の存在意義

投稿日:2017年9月21日 更新日:

 米ハーバード大学の経済学者ケネス・ロゴフ教授が著書「現金の呪い」の中で「1万円札」を廃止すべきだとの持論を展開している。
 高額紙幣が存在するからマネーロンダリング(資金洗浄)や脱税などがまん延するし、タンス預金を助長して、消費や投資を促すマイナス金利策の効果を弱めるというのが主張の根拠だ。
 欧州中央銀行(ECB)はユーロの最高額紙幣である500ユーロ(約6万5000円)紙幣の発行を2018年末で停止することを決めている。テロや犯罪の資金源を断つのが目的で、「すべて電子データ上の決済になれば、架空口座決済でも犯罪者は最終的に自分の口座でお金を受け取るので簡単に足が付く」というわけだ。
 高額紙幣廃止と言えば、昨年11月、インドのナレンドラ・モディ政権が突然、高額紙幣の1000ルピー(約1700円)、500ルピー札の無効化を宣言した。不正蓄財、脱税などのあぶり出しが主な狙いだったが、市場に流通していた一国の通貨総額の86%を一夜にして無効化した荒療治は効果よりも打撃の方が大きかったようだ。
 モディ首相が取った衝撃的な金融措置から10カ月が経過したが、今年第2四半期(4~6月)のインドの国内総生産(GDP)成長率は5・7%で、前年同期の7・9%から大きく落ち込んだ。最近の13四半期の中でも最低の伸び率だった。特に製造業の成長率はわずか1・2%で、前年の10・7%の10分の1近くに下がり、いかに現金不足が製造業を直撃したか分かる。
 モディ首相には高額紙幣無効化を契機に金融取引の電子化を進めたい、というもう1つの目論見もあったという。しかし、当時まだ取り引き決済の90%が現金で行われていたインドで、急速な電子化は無理だったようで、高額紙幣無効化は「失敗だった」との見方が広がっている。
 ロゴフ教授はまた、日本経済について電子化が進まないことが、消費を促進せず成長を妨げているとの見方を示しているが、日本国内には反対意見を持つ経済学者の方が多い。クレジットカードやインターネット・バンキングが普及したとは言え、中高年齢層を中心にカード使用に慎重な人が多い。筆者もその1人かも知れないが、カード使用はきわめて限定している。主観的な言い方だが、現金決済は出ていくお金の重さをその都度、確認することができる。支払いに際して、分相応の金の使い方なのか自分に問いかけるチェック機能が働く点が良い。
 タイ人の消費行動を観察していると、若い人の間では日本以上にカードや電子決済が広がっているのではないかと思う。ショッピング・センターやスーパー、コンビニでもほんの小額の買い物でもカードで払う人が増えたため、日本以上にレジに並ぶ時間がかかると感じることが多い。
 初めてタイに来た30数年前、この国の最高額紙幣は500バーツだった。それが経済成長やインフレもあり、かさばるのが不便ということで1000バーツ札が発行された。日本の現金信奉者の層はかなり厚いと思うが、タイはどうなのか、調べてみたくなった。
 (フリージャーナリスト・須田浩康)

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